ある日、診断書が会社に送られる
Aさん(30歳男性)は、上司との面談の中で、自身のストレス状況をポツポツと語り出しました。
異動先の職場に馴染めず、人間関係もうまくいかないこと。
慣れない業務の中、効率が上がらずミスも出てしまい、それをカバーしようと残業を続けていること。
帰宅が遅くなっても寝付けず睡眠不足になってしまい、朝体がだるく起きれない日が続いていることなど・・・。
上司は、励ましと共に出来る限りのサポートをする旨伝えましたが、具体的な対応策はありませんでした。
Aさんは次第に欠勤が続くようになりました。そして数日後、軽度のうつ病である旨の診断書が会社に送付されました。療養期間は1か月となっていましたので、1か月療養すれば、復職するだろうと判断し、休職期間は連絡を取らずそっとしておくことにしました。
また、代替要員の確保はしませんでしたので、残された同僚たちはただでさえ忙しい時期にAさんの仕事の分まで負担することになり、不平不満を持つようになりました。上司はAさんの同僚からAさんの休職理由を尋ねられましたが、精神的な病気であるとの懸念から、同僚には伝えないままでした。
Aさんは1か月経過しても、復帰する見通しは立っておらず、休職診断書はさらに療養期間を要する旨の記述がされており、残された同僚の不満は噴出しています。
この事例から見てとれるリスク
この事例では、いくつかのリスクをはらんでいます。
①Aさんの労災請求リスク
Aさんは異動をきっかけに慣れない業務と人間関係でストレスを抱え、長時間労働も続いており、会社はこれを把握しつつも、特段職場環境の見直しをしませんでした。
残業は、本人のミスや効率の悪さが原因としても、長時間労働が恒常的に続いているとAさんが仮に、うつ病の原因が業務に起因するものとして労災請求した場合、労災認定される確率は格段に上がります。
http://www.mhlw.go.jp/bunya/roudoukijun/rousaihoken04/dl/120215-01.pdf
(労災認定基準)
②残された同僚の過重労働リスク
会社はAさんが1か月で復職するだろうと、代替要員を確保しませんでした。
Aさんの業務は残された同僚に負担がかかることになります。結果長時間労働の発生のリスクを抱えることになります。Aさんが休職している期間が長引けば長引くほど、職場に過重労働のリスクを持ち続けることになります。
現在、国は長時間労働に対しての取組を強化しています。従来は100時間を超える事業場が対象でしたが、80時間超へ重点監督対象を拡大としました。
http://www.mhlw.go.jp/file/05-Shingikai-11201000-Roudoukijunkyoku-Soumuka/01_1.pdf
③残された同様のメンタルヘルス不調リスク
残された同僚は、長時間労働をきっかけにメンタルヘルス不調に繋がるリスクもはらみます。
緩衝要因であるべき上司が、何ら役割をはたしていない場合は、さらにリスクが高まります。
(以下の職業性ストレスモデルを参照ください)
④会社全体の士気の低下リスク
会社は、Aさんに対しては、休職期間は直接連絡を取らず、残された同僚に対しては、Aさんの休職理由を伝えないまま、業務負担を強いており、適切なフォローを行っていません。Aさんの休職期間が長引けば長引くほど、従業員の会社に対する不満は募っていき、会社全体の士気の低下につながります。